キルギスの首都ビシュケクに、かつて等身大のブロンズ像が並んでいたモニュメントがある。場所は国立科学アカデミー前。1995年に彫刻家トゥルグンバイ・サディコフが作ったこの作品は、各ブロックの上に科学者や学者の像が置かれ、それぞれの足元に名札がはめられていた。普通なら地元の歴史や功績を示す記念モニュメントだ。
ところが現在、その広場に残るのは金属のプレートだけだ。元の等身大ブロンズ像は盗まれたか撤去され、作者自身が残りの像を取り下げたという。結果として“人のいない肖像”だけが並び、表面上は功績の名前を示すが肝心の人物像が空席になっている。見た目の不在が強いメッセージを放つ、普通とは異なる風景だ。
この“空の肖像”を再解釈したプロジェクトもある。写真家ブラッド・ダウニーは2016年に、過去の肖像を調べ、当時の対象に相当する現代の専門家を空席に立たせて撮影する一連の作品を発表した。欠けた像を現代の人間で置き換えることで、記念の意味や記憶の扱われ方を問い直している。
確認できる事実は、設置年と作者、当初像があったこと、のちに像がなくなりプレートだけが残っていること、そしてダウニーの写真プロジェクトが行われたことだ。一方で、像が盗まれた正確な経緯や時期、地元当局の公式記録については公開情報が限定的で、詳細ははっきりしていない。
風景としての奇妙さは、“人物を刻むはずの場所に不在が据えられている”という点にある。公共空間に置かれる碑や像は本来「誰がそこにいるか」を示す物だが、ここでは名前だけが残り、見る者に欠落と問いかけを突きつける。過去と現在、記憶と現実がずれる場所として、ビシュケクのこの広場は静かな違和感を伝えている。
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