アメリカの研究組織Anthropicは2026年10月、同社の言語モデルClaudeを使って、1990年代に定められた有名なECDSA(楕円曲線デジタル署名)曲線の「seed(種)」の由来を再現したと発表しました。ポイントは、種を作る際に使われた乱数が最新の暗号用ではなく、古いC言語ライブラリの擬似乱数生成器(lrand48)で、初期化に使われた値が当時のUnixタイムスタンプである可能性が高い、という点です。暗号の裏で“偶然その場にあった手法”が使われていたらしい――という話です。\n\nまず普通でない理由を整理します。暗号曲線の種は、曲線の安全性に関係する設計上の出発点です。もし誰かが秘密裏に特定の値を選んでいれば“裏口(バックドア)”になり得ます。だから種の選び方は透明であることが期待されます。ところが一部の有名曲線について「種の由来が不明」という疑問が長らく残っていました。Anthropicの報告は、そのうち複数の種が“意図的な工作”ではなく、当時一般的だった単純な乱数と時刻の組み合わせで生成可能だと示した点で注目を集めます。\n\n具体的に何をしたかというと、研究チーム(とClaude)は、乱数出力に現れるわずかなパターンを検出し、数学的手法で擬似乱数の内部状態を復元しました。これにはLLLと呼ばれる格子基底削減法(複雑な数列の背後にある整数関係を見つける手法)や、逆向きに時刻を推定するステップが含まれます。論文には手法の概要や再現用のコード断片も掲載されており、単純に文章で説明するだけでなく実際に再現できるレベルの情報が示されています。\n\nしかし結論は慎重です。著者らは「この結果は裏口の存在を証明するものではない」と明言しています。報告は「特定の初期化方法で種が再現できる」という技術的事実を示すもので、元々の選択者が意図的だったかどうかを断定する主張はしていません。また、すべての曲線の由来が完全に解明されたわけではなく、いくつかの種や基点の由来はまだ未解明として残っています。独立した第三者(暗号コミュニティや標準化機関)による再現・検証もこれから進む必要があります。\n\n要するに、この報告が面白いのは「暗号史の裏側がAIと古いツールの組合せで可視化された」点です。昔の設計決定が現代の検証技術で追跡できるという事実は、暗号設計の透明性や後世の検証可能性を考えるうえで示唆的です。一方で、報告自体は新たな暗号破壊攻撃を主張しているわけではなく、まだ検証と議論が必要な段階にあります。
※ アイキャッチ画像は記事内容をもとにAIで生成したイメージです。