巨大な甕の中から1600年前の人骨――ローマ期都市の「隠れ場」とは何だったのか

ブルガリアの古代ローマ都市Deultum(デウルトゥム)の城門近くで、巨大な土器(dolium=ドルィウム)の内部から約1600年前と推定される人骨が発見されました。土器の中からは鉄製の短刀2本や帯の破片も見つかり、周辺には焼けた遺物やすす、家畜の骨、青銅貨などが散らばっていたと報告されています。発掘を率いたLyudmil Vagalinski氏(ブルガリア科学アカデミー)は、敵の襲撃や火災を避けようとして人が甕に隠れ、そのまま亡くなった可能性を指摘しています。

なぜ普通ではないのか。土器は本来、穀物や液体を貯蔵する容器で、人が入る用途には作られていません。しかも見つかった場所は街の防御塔付近で、周囲に焼損痕があることから「襲撃や炎上の場面で逃げ込んだ」と想像しやすい状況です。ただし、現場の遺物配置や焼け方から直ちに「甕に押し込められて焼かれた」などの詳しい死因までは確定できません。

今回の発見で確かに分かっているのは、土器内に人骨と武器があったこと、燃えた痕跡が周囲にあること、遺体はさらなる分析のためソフィアへ移送されたことです。一方で、遺体の年齢や性別、正確な年代(放射性炭素年代測定の結果)、そして事件の経緯(自ら隠れたのか、他者によって押し込められたのか)はまだ明らかになっていません。今後の人類学的分析や年代測定が待たれます。

日本の読者にとって興味深いのは、「大型の貯蔵甕に人が入って死亡する場面」が考古学的に記録される珍しさです。日本の遺跡では貯蔵器に人が見つかる例は一般的ではなく、当時の混乱を想像させる鮮烈な断面資料になります。現段階では仮説の域を出ない部分も多いですが、土器内部という狭い空間に残された遺物が語る「最後の瞬間」を、やがての分析でより正確に読み解ける可能性があります。

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