メスもレーザーも使わない“角膜の形変え”実験 電気で視力を直す可能性?

米国の学会で発表された実験が話題になっています。研究チームは、メスやレーザーを使わずに「電気」と白金の型(テンプレート)で角膜の形を一時的に変え、近視の矯正に近い屈折変化を与えられることを摘出したウサギの眼で示しました。

方法は比較的シンプルです。角膜に白金製テンプレートを当て、電位(電気の力)をかけて角膜表面の化学環境を変え、角膜組織を“可塑化”して型に沿わせます。報告では処置は約1分で終わり、pH(酸性度)の調整で細胞の生存も保てたとされています。実験は摘出したウサギの眼12個で行われ、近視矯正を目指した10眼は目標の屈折力に到達したと報告されています。

一見すると「手術を必要としない角膜矯正」のようで、奇妙で魅力的です。しかし、ここで重要なのは実験の段階です。今回の結果は学会発表レベルで、摘出眼という生体外(生きた動物の体の外)での短時間の変化を示したにすぎません。査読論文や生きた動物・ヒトでの安全性や効果の持続性に関するデータは確認されていません。

懸念点は複数あります。角膜は微細な細胞層と神経があり、長期的に形を保つには組織の再生や瘢痕化(傷が治る過程での変化)などが関わります。生きた動物で同じ処置を行った場合の炎症反応、視力の安定期間、乱視の発生有無、痛みや感染のリスクなどは不明です。また、電気化学的処置の繰り返し可否や長期的な毒性も未検証です。

現時点で言える確かなことは、「電気とテンプレートで角膜を短時間に形作ることは摘出眼で可能だった」という点だけです。臨床で使えるかどうか、患者の視力が長期間安定するか、安全に感じる副作用がないかは、さらに多くの段階的な検証が必要です。

科学的には面白い着想であり、メスやレーザー以外のアプローチが増えれば選択肢は広がります。ただし、今は初期の実験結果であり、過度な期待は禁物です。今後、査読を経た論文や生体試験の結果が出て初めて、安全性と有用性の判断が可能になります。

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