イギリスなどの中世写本(羊皮紙)から、家畜にかかる「sheeppox(シープポックス)」に似たウイルスのDNA断片が検出され、約3,500年にわたるウイルスの系統が再構築されたと報告されました。問題の発見は、写本が単なる宗教文書や辞書ではなく、当時の動物病や人間の暮らしの痕跡を含む「情報の倉庫」だったことを示唆します。これは“紙が病気の歴史を保存していた”という意外な逆転です。
通常、古いウイルスの研究は骨や土壌、ミイラなどから行われます。ところが今回の材料は羊の皮を加工した「vellum(ヴェラム)」で、そこに残された動物由来DNAを分析した点が普通ではありません。研究はScience Advancesに掲載され、ヨーク・ゴスペルやコーパス・グロッサリーといった名高い写本もサンプルに含まれていると伝えられています。
報告によれば、合計41のサンプルでcapripoxvirus(カプリポックスウイルス)群に関連する断片が確認され、そこから長期にわたる進化史の推定が行われたとのことです。しかし重要なのは、写本から得られたDNAが本当に古い時代のものか、現代の汚染や後世の混入が排除されているかという点です。古DNAを扱う研究では特別な保護措置や検証が必要で、論文の方法論や配列データの公開状況を確認することが不可欠です。
また、写本の採取が文化財保護の観点でどのように許可されたかも公表の有無が注目されます。元の報道は研究者名や主張を紹介していますが、一次論文の補足データや認証手順を照合することで、今回の結論がどこまで確かなのかを判断できます。
結局、この研究は「古代〜中世の畜産と病気の歴史を新しい素材でたどれるかもしれない」という魅力的な可能性を示しています。一方で、写本という特殊な保存媒体から得られた証拠の解釈には慎重さが求められます。現時点では、写本が古代ウイルスの“タイムカプセル”であるという仮説と、それを検証するための追加の透明なデータが鍵になりそうです。
※ アイキャッチ画像は記事内容をもとにAIで生成したイメージです。