イギリスの研究チームが示した試算によると、牛の代わりに「精密発酵」という技術で牛乳成分を作れば、牛乳生産に使う土地を最大で96%も減らせる可能性があるという報告が出ました。
精密発酵とは、遺伝子を組み込んだ微生物(たとえば酵母や細菌)に人や動物のタンパク質を作らせる技術です。分かりやすく言えば「微生物の工場」で乳タンパク質を生産し、牛乳の代わりに使うという考え方です。
研究はFrontiers in Sustainable Food Systemsに報告され、主要著者の一人にImperial College LondonのJade A. Warrenさんが含まれます。論文の解析では、英国で牛乳を全て精密発酵由来に置き換えた場合、約4,294 kilohectares(キロヘクタール)が不要になると試算されています。
数字のイメージを簡単にすると、これは英国本土とほぼ同じくらいの面積が“空く”ほどの規模です。部分的な置換でも効果が大きく、20%置換で859 kilohectaresの土地節約、50%ならさらに大きな削減が期待できると示されています。
ただし、ここで示されたのは試算(モデル計算)であって、現実にすぐ実現する話ではありません。研究は土地使用と生産方式の比較に焦点を当てており、経済的コスト、工場の設備投資、法規制、消費者の受け入れなど社会面の評価は限定的です。
また「精密発酵で作るミルク」とは論文や報告で定義が分かれている可能性があります。乳タンパク質だけを生産するケースと、牛乳と同等の完成品を工場で組み立てるケースで必要な資源や工程は変わります。元論文の詳細な前提(ライフサイクル評価や土地算定の方法)も確認が必要です。
環境面のメリットは大きく見えます。牧草地や放牧のための広大な土地を別の用途に回せれば、自然回復や別の食料生産への転用が可能になるという指摘があります。ただし、それが社会的に好ましいかどうかは別の議論です。
日本の読者にとっての珍しさは、牛乳という日常的な食べ物が「微生物工場」で作られる可能性が真面目に議論されている点です。技術的に可能でも、味や安全性、流通の仕組みが変わると消費者の反応は大きく左右されます。
現時点で確かなことは、精密発酵は土地使用を大幅に下げるポテンシャルを持つという研究結果があることだけです。経済性や社会受容、規制整備など実用化に向けた課題は多く、今後の追加研究と社会的議論が必要だと研究者自身も指摘しています。
※ アイキャッチ画像は記事内容をもとにAIで生成したイメージです。