ロンドンのウエストミンスター寺院で、古いローマ時代の石棺が中世に再利用され、その中から11世紀頃の中年男性の全骨格が見つかった。石棺の側面には4世紀ごろのラテン碑文があり、蓋にはアングロ・サクソン風の十字が刻まれているという、時代が混ざった「歴史の折り重なり」が話題になっています。
この石棺は1869年に寺院で見つかり、保存作業の際に注目されてきたものです。2016年の本格的な修復で内部が調べられ、中年の男性遺体が確認されました。遺体の放射性炭素年代は約987–1052年を示しており、これはおおむね11世紀前後の時期と一致します。
なぜ普通ではないのか。通常、石棺は作られた時代と同じ時代の埋葬に使われることが多いのに対し、ここではローマ期(約4世紀)の石棺が中世に「使い回された」点が異様です。しかも寺院の中心的な場所に埋葬されていたことから、被葬者は地位の高い人物だった可能性があります。
研究チームは、当時の寺院の重要人物、たとえば修道院長(アボット)などが候補として挙がるとしています。しかしこれはあくまで推定であり、特定の名前を確定する証拠はありません。遺体から得られた年代測定や埋葬の場所、石棺の装飾などを総合した「もっともらしい説明」にすぎない点は強調されます。
確認されている事実は、石棺のローマ碑文、蓋の中世十字、2016年の骨の発見、そして放射性炭素年代の結果です。一方で、被葬者が誰か、なぜ古い石棺が中世に用いられたのかといった理由の詳細は明らかになっていません。石棺の再利用は、資材の流用や権威の象徴など複数の背景が考えられますが、現状では仮説の域を出ません。
時代が重なるこの事例は、考古学が時間の「混ざり合い」を教えてくれる好例です。確かなのは、物質としての石棺はローマ時代の産物であり、中に眠る人は中世の人物であるという不思議な事実だけ。続く研究で、もう少し具体的な背景が明らかになるかもしれませんが、現在の理解は慎重な推定にとどまっています。
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